カーナビゲーションをはじめ、Google Mapに搭載されたナビ機能など、多くの人が日常生活のなかで慣れ親しんでいる衛星測位サービスを、“高精度”かつ“安定した”ものへと改善できるという、日本の準天頂衛星システム(QZSS)「みちびき3号機」に注目が集まっています。 みちびきの最大の特徴は、「センチメータ級測位」によって誤差数センチという高精度な測位が可能となる点にあります。これによりGPSなど既存の測位衛星システム(GNSS)と比べ、より正確な位置情報の取得が可能になるといわれています。
今回はみちびきの仕組みについて簡単に触れ、みちびきが提供する「高精度」な位置情報データがどのようなサービスを生む可能性があるのか、スポーツと農業分野での活用事例を紹介していきます。

「高精度」な測位を可能とする仕組みとは?

そもそも衛星測位システムの測位誤差とは一体どのような理由から生じるのでしょうか。みちびき公式サイトによると、例えばGPSの場合、誤差を生む大きな原因のひとつとして「衛星数の不足」が挙げられます。

GPS衛星と合わせ計8機以上の衛星配備で安定した測位を可能に!

先日2017年8月19日に打ち上げが成功したみちびきは「3号機」です。初号機は2010年に、2号機は2017年6月にそれぞれ打ち上げられています。

2015年に制定された「宇宙基本計画」においては「2023年度をめどに持続測位可能な7機体制での運用を開始する」ことが目標とされています。

本来、衛星測位自体は衛星が4機以上ある場合には実行が可能ですが、安定した位置情報を取得するためには、特定の地点から8機以上の衛星が見えていることが望ましいのです。
ところが、GPS衛星を利用した既存の衛星測位サービスの場合、地球全体に衛星を配置している関係で、最大でも6機ほどからしか情報を取得することができません。
それを解決するために、今回のみちびきには既存のGPS衛星との互換性を持たせ、GPSが現状抱えている問題点を機能的に補完するという役目があります。

将来的にみちびきが4機体制になると、アジア・オセアニア地域であればどこからでも常時みちびき3機が観測可能となります。つまり、GPS衛星6機とあわせることで、安定した位置情報の取得に欠かせない8機以上の衛星からなる衛星測位サービスが実現できるのです。

2017年現在は衛星からの情報がビルなど地上の建造物に阻まれて届かないといった事態を回避するため7機体制による安定した測位環境の整備が目標とされています。

みちびきはビジネスへどう活用される?事例を紹介

みちびき2号機の打ち上げに成功した2017年6月、内閣府は記者会見を開き、みちびきの生む経済効果が2020年には年間約2兆円に達するという試算を発表しました。

このように、みちびきがビジネスへと及ぼす影響力は大きなものと予測されています。では具体的にはどのような分野で、どのようなサービスが登場すると考えられるのでしょうか。事例としてスポーツと農業の2分野を取り上げ、みちびきがもたらしうるビジネスの可能性を紹介します。

スポーツ分野の活用事例:トップランナーのコース取りを正確に記録!

スポーツ分野においては、マラソンランナーが使用するフィットネストラッカーの精度向上が期待されています。スマートフォンのGPS機能を活用して自身のランニングコースを記録し、ラップタイムの改善に役立てようとするランニング愛好家は多くいます。みちびきを利用すればより誤差の少ない記録を収集することが可能となるかもしれないのです。

日本経済新聞では2017年6月2日の記事で、内閣府の委託事業(「スポーツ分野における宇宙関連新産業・新サービス創出に係わる調査」)を受託したアシックスの例が紹介されています。
記事によれば、アシックスは2016年の神戸マラソンにおいてみちびき1号機を使用した「リアルタイムコーチング」の実験を実施しました。

衛星測位サービスを利用したリアルタイムコーチングとは?

リアルタイムコーチングとは、トップレベルのランナーが走ったコースをみちびきによって正確に記録、後続ランナーの装着したスマートウォッチに情報をリアルタイムで送信するという仕組みのことです。これによって後続ランナーはトップレベルのランナーのコース取りを参照しながら走ることができるようになります。

既存のGPSデバイスを用いてコース取りのデータを取得すると、メートル単位の誤差が生じてデータが不正確なものになってしまいます。
しかし、みちびきを使用したこの実験では、実施時期にちょうどみちびきが天頂付近に位置していたという好条件も重なり、結果として1メートル程度の誤差でのデータ取得が可能となったとのことです。実際にコース中のS字コーナーで、トップレベルのランナーは後続のランナーに比較すると走行距離を1.2メートル少なく抑えていることも判明したといいます。

このようにみちびきを活用すれば、トップレベルの選手の走り方をかなり詳細に可視化し、自身の記録改善に役立てるといったランナーの取り組みをサポートすることができるようになるのです。

id=”anc02-3″>農業分野の活用事例:安全に作動する農作業用ロボットの開発!

農業分野においては、みちびきのもたらす高精度位置情報を活用した農作業用ロボット研究が現在進行中です。

北海道大学大学院農学研究院の野口伸教授は、そうした研究に取り組む研究者の1人です。
JAXA公式サイトに掲載されているインタビューによれば、野口教授はみちびきを利用して、GPS信号を補正することで、よりトラクターが正確な位置情報を頼りに安全な自動走行を行えるようにする実験などに取り組んでいます。研究が進めば、事前に指定した走行コースを進み、場所ごとに適切な量の肥料、農薬を散布するトラクターの開発が可能になるといいます。

野口教授によれば、農作業用ロボットを高精度かつ、安全に作動させるためには安定性の高い測位システムが非常に重要となります。従来、補正信号であるLEX信号は地上局から送信され、携帯電話を介して取得されるというシステムを採用していました。しかしこの方式には弱点があります。電波状況の悪い農村部においては信号を受信できないエリアが生じてしまうのです。
これに対してみちびきを利用することで、LEX信号を遮蔽物がない宇宙から送信することができるようになります。すると地上局を経由して信号を受信する場合よりも、信号の届くエリアが広がり、かつ、より高精度での測位ができるのです。

農業分野における衛星測位サービスのビジネス展開の可能性

日本において農業のIT化は、北海道などわずかな地域を除けばまだまだ浸透しているとは言い難い状況です。
ですが、農業従事者の高齢化が大きな問題となっている現状では、人間に代わり農作業を行うロボットの需要は非常に高くなると予測されます。
また、前述したとおりみちびきはアジア・オセアニア地域であればどの地点からでも利用可能です。このため、すでに韓国やマレーシアではみちびきを使った新たな農業技術の実証実験が行われています。

このように海外からも関心が寄せられているのは、みちびきを活用すればGPS補正信号が経由する地上局を建造せずに済むというメリットがあるためです。今後みちびきを活用した農業技術が実用化されれば日本のみならず、海外への進出も視野に入れた新たなビジネス展開が可能となるかもしれません。

衛星測位システム普及の鍵

GPSに頼らず、自国の衛星測位システムを開発しようとする動きは日本以外の国でも活発化しています。ロシアの「GLANASS(グロノス)」やEUの「Galileo(ガリレオ)」がその代表例です。
それらのなかでも、みちびきの誤差数センチという高い精度は群を抜いている性能となっています。つまり「精度」に関しては、日本は現状で他国よりも1歩リードしているのです。

一方で、みちびきの活用をめぐって課題点もいくつか指摘されています。例えば、2017年6月1日に放送されたNHKの番組内では、センチメータ級測位を利用するためには、GPS専用機とは別に、専用の高価な受信機が必要になるという点が問題として取り上げられました。
確かに高精度を実現するためには高価格化は止むを得ない代償ではあります。今後センチメータ級測位を活用したビジネスが広まるためには、受信機をある程度にまでコストダウンすることが必須となるはずです。

みちびきを活用した新たなITサービスを開発する取り組みは、まだまだ始まったばかりです。
みちびきの“高精度”という強みを、各企業がビジネスとしてどのように取り入れていくのか、今後の動向に注目が集まります。

G-Searchでもっとサガス

G-Searchミッケ!の雑誌記事検索で「衛星測位システム」の周辺情報を調べてみました。現在、主流となっている米国のGPSに対抗して、各国が技術力を競っていることがわかります。また、日本のみちびきの最大の特徴である「センチメータ級測位」は、車の自動運転や災害時に安否情報を送受信できる機能も搭載され、様々なシーンでの活用が予定されています。みちびき4号機の打ち上げは2017年10月10日。日本版GPSへの期待が高まります。