本記事は、2009年2月26日に掲載された、G-Search sideB記事を再掲載しています。
近年、乳がん検診の啓発広告などをよく見かける。
アグネス・チャンさん、山田邦子さん、川村かおりさんらの芸能人が乳がん罹患を公表するなど、「そういう病気が世の中にある」ということは確実に世間に広まっていると思われる。しかし、検診率が20%にとどまるなど、まだまだ自分に引き付けて考えるという人は少ないのではないか。
20分の1の確率でかかるという乳がん。かからないために何ができるかを、『新聞・雑誌記事横断検索』を使って調べてみた。
乳がんと日本人
日本人女性の20人にひとりがかかるという乳がん。死亡者数は、胃・肺・結腸・肝臓に次いで五番目に多く、30-60歳では死亡率のトップだという。50代がピークだが、30-40代にも多い。
罹患する確率が高いのは、(1)血縁者(祖母、母、姉妹等)に乳がんになった人がいる、(2)初潮が早く閉経が遅い・第一子の出産が遅いなど、エストロジェン(女性ホルモン)に曝される期間が長い、(3)動物性脂肪の摂取が多い、などが挙げられている。中でも遺伝的要因は重要とされる。
決め手は早期発見。外部から手で触れて分かる唯一のがんと言われ、自己検診や病院での定期健診が推奨されている。かかった場合、外科手術(乳房全摘出または部分摘出)、抗がん剤、放射線治療が一般的な治療方法だ。
元来、欧米での発症率が高く、アジア地域は比較的少ないといわれていた。しかし、近年、日本や中国の都市部で増加の一途を辿っている。食の欧米化や環境ホルモンなどが原因ととも言われている。
低い検診率、その理由は?
筆者はここ数年、ほぼ毎年病院で検診を受けている。が、周りには検診に行ったことがないという人も多い。なぜ行かないのか?
◆理由1:忙しい
病院は大体平日夕方までしか開いていない。予約を取ろうとしても、スケジュールと合わないことがある。
◆理由2:高い
保険が適用されないので全額自己負担となる。費用は、病院にもよって差異があるが、1万~2万程度。
◆理由3:不安
何をされるのか分からなくて不安。かなり痛いとも聞く。
◆理由4:メンタルな部分での抵抗感
病院の診察室という「社会的に公の場」でプライベートな体の一部を差し出すことに抵抗がある(特に医師が男性の場合)。
◆理由5:あまり危機感がない
がんになった親類もいないし、触っても何もないし、多分自分はがんじゃないと思う。
・・・・・・なるほど。
全てうなづけることばかりだが、一つずつ見ていこう。
一つ目の理由「忙しい」について、確かに休日に検診を受けさせてくれる医療機関が少ない。また、最近検診を受ける人が増えたため、予約しても一杯という場合がある。キャンセル待ちの調整も大変だ。
自治体などで、土日祝日に検診を実施してくれれば、受診率が増加するのではないだろうか。
二つ目の料金について、多くの自治体で補助が出る場合がある。自治体のサイトなどで確認してみよう。
また、万が一がんがみつかり、進行していた場合、治療にかかる費用や時間、労力などのコストは比べ物にならないほど高い。早期発見または安心のためのコストと考えたらどうだろう。
三つ目の「不安」とは、必要な情報が与えられていないことが原因と思う。
医療機関のウェブサイトやパンフレットなどでは、できるだけ不安を軽減するような表現で情報を提供してくれているが、実際に受診しようと思ったときに欲しいのは、検診に関するもっと具体的な、詳細な内容ではないか。
きれいな待合室や笑顔の検査技師の写真、「簡単に短時間で」という説明だけでは、実際に受けた人の話との間にギャップがあり、いまひとつ不安感が拭いきれないように思う。
四つ目、これは難しい問題かもしれない。個人差もあるからだ。ただ、これも受信者と病院側の感じ方のギャップに起因する部分があるかもしれない。
以前筆者が規模の大きい医療機関で検査を受けた際(結果は陰性)、女性医師の担当を希望して受け入れられたにもかかわらず、エコー検診の最中に、研修医を連れた医師(男性)が突然カーテンを開けて現れ、画面を見ながら研修医に説明を始めたということがあり、大いに驚いた。
病院の仕組みとして仕方ないとは思ったが、前もって説明もなく、医療機関側と受診者側の感じ方に結構な違いがあるなと実感した。まあ、実際にがんにかかったらこんなことは言っていられないのだが・・・。
五番目、これも難しい。ただ、100%他人事ではないということだけは言えると思う。
普段から気にかけておけば、少しの異変でも自分で気がつくことができる。現在異常がなく健康な人でも、心の隅で意識しておくことが身を守ることにつながると思う。
がんになったらどうなるの?
検診でもし実際にがんが見つかったらどうなるのか。
自分の体にどんな変化があるのか、生活はどう変わるのか。費用はどのくらいかかるのか、仕事は続けられるのか、人間関係は?
そういった情報は、一般的な医学書や闘病記を読んでも、病状・環境その他に個人差がありすぎて、そのまま自分に当てはまるわけではない。統計情報もあくまで統計だ。ただ、参考にはなる。自分や家族が健康なうちに資料を集めて勉強しておくことはよいことだと思う。
一般に、乳がん手術後の情報と言えば、無くなった乳房の再建に注目が集まることが多い。しかし、その後飲み続ける抗がん剤の副作用や、脇のリンパ節を切除したことによるむくみのつらさ、思うように腕が動かなくなるなどの、生活の質に関する情報が手薄な気がする。
こういうときは、一般の書籍よりも、新聞記事の方が詳細な情報が集まる場合がある。社会の偏見により会社を休職中に降格となったり、乳房を切除した側の手が思うように動かせなくなったために自営業の店を閉店せざるを得ないなど、いろいろな「その後」の話を拾うことができた。
実際にその立場にならないと、知ることのできないことが沢山ある。突然なんの準備もなく病気を告げられあわてることのないよう、新聞・雑誌記事横断検索などを使って、書籍化される前の最新の治療などに関する知識なども手軽に入手して蓄えておきたい。
乳がんの予防はできるのか
乳がんは遺伝的要因や女性ホルモンの分泌の影響が大きいと言われる。どちらも自分でコントロールすることができない。何か少しでもかかりにくくなる方法はないのだろうか。
記事によると、乳がんや卵巣がんの発症に関係のある遺伝子の有無を調べ、将来かかる可能性があるかどうかを調べることが可能だという。自己診療のため、費用は数十万かかるとのこと。庶民にはきつい。
また、乳・乳製品と乳がん発症との関連も指摘されている。
ジェイン・プラント著『乳がんと牛乳 がん細胞はなぜ消えたのか』(2008年 径書房)は、乳・乳製品と乳がんの関係を、タバコと肺がんの関係になぞらえて指摘している。
地球化学の研究者であり、進行がんを患い四回の転移ののち克服した著者は、研究者としてのスタンスで、なぜ自分が乳がんにかかったかを考え、突き詰めていく。夫の「中国人は牛乳を飲まない」との言葉に啓発され、牛乳の成分の人体への影響など詳細なデータを挙げて乳がんと牛乳・乳製品との関連を示していく。その過程は推理小説のようで面白い。
自らの治療経験についても一通り書かれている。興味のある方はご一読を。
自分でできること
自分もかかるかもしれない、という意識を持つこと。「怖いから考えない」ではなく、「万一かかっても軽く済むための方法」を考えること。
乳がんは、自覚しやすいがんでもある。冒頭に挙げた芸能人の方も、自分で気がついて受診し発覚したのだという。 そして、万一かかったとき、絶望したり、パニックになった状態で重大な判断を下すことのないよう、冷静に考えられる健康なときに、いろいろなソースから情報を仕入れておくこと。
いろいろな方の体験記に、がんを告げられたときに「なぜ私が」という思いにうちのめされ、しばらく立ち直れなかったという記述があるのが印象に残っている。健康なときには、どこかで「自分だけはがんにならない」という意識があるのだと思う。
その意識を変えていくことが、がん対策として最初にできる有効な手段だと思う。そのために、いざというときだけでなく、普段から情報収集ができるようにしておくことの大切さを実感した。
さあ、乳がん検診、行ってみませんか。
参考
- 乳がんの基礎知識 – 女性の病気研究会運営