本記事は、2009年6月4日に掲載された、G-Search sideB記事を再掲載しています。
半月ほど前のニュースになりますが、先月5月13日、出版社3社(講談社、集英社、小学館)と大日本印刷グループが、新古書店のブックオフの株を取得するというニュースが報じられました。
いや、びっくり大事件です。
実際、G-Searchの『新聞・雑誌記事横断検索』で検索してみると、多くの新聞がこのニュースを取り上げています。今回は、このニュースについて掘り下げてみたいと思います。
背景
前提となる出版業界(出版社、取次、書店)の状況を簡単に記します。
- 出版業界の業界規模は横ばい。
- 古本市場は成長。
- 長らく出版不況と言われている。
- 再販制度によって、書店は本の価格を自由に設定できない。
- 再販制度によって、書店は在庫を出版社に返品することができる。
- 返品率は4割と言われ、出版社は大量の在庫を抱えている。
- 再販制度は原則堅持するのが業界のルール。
- 新古書店(ブックオフ)の台頭によって、新刊の売上が下がっている(と、出版社は見ている)。
- 古本が売れても出版業界、著作権者には儲けが出ない。
このような状況から、ブックオフと出版業界の関係は敵対関係と言っていい状態でした。出版業界にしてみれば、ブックオフは競合するだけで利がないからです。
しかし、ここにきて、提携のニュースです。
提携の狙い
提携の狙いはズバリなんでしょうか? 「新刊と中古本市場が協力し、出版業界全体の繁栄につなげたい」というのが出版社側のコメントですが、 実際の狙いとして、次のような見方があります。
- 古本市場の流通をコントロールしたい
出版業界側は、新刊が発売から数日でブックオフに並び、割安で買える状況が、新刊の売上を下げていると見ています。ルールを作ることで、この状態を改善したいという見方です。発売から一定期間は販売しない、とか、古本の売上の一部を著作権者(出版社)に還元する、といった案があるようですが、ブックオフの利害と対立します。 - 自社の在庫をさばきたい
出版社は再販制度で本を売る限り、返品を受け付けなければなりません。その返品率は4割に上るといわれており、返品によって生じる在庫は出版社の経営を圧迫しています。こうして抱えた在庫を、自由価格本としてブックオフの販路におおっぴらに流すことで、在庫の削減を図ろうとしているのではないかという見方です。ただ、この見方については、出版社が否定したと取れる記事があります。取次の権益に配してのことでしょうが、さてさて。
対して、ブックオフの狙いはなんでしょうか? 次のような見方があります。
- 関係の改善
ブックオフと出版業界は、これまで敵対関係と言っていい関係でしたが、これによって出版業界の仲間入りを果たしたとアピールできる、という見方です。敵対から共存の関係にシフトし、業界全体の発展に寄与する、という感じでしょうか。出版社はともかく、書店や取次が歓迎してくれるかは疑問ですが。 - 自由価格本を販売したい
出版社の抱える在庫を、価格を自由に設定できる自由価格本として卸してもらうことで、販売力の強化を図るという見方です。 ブックオフの社長が希望として述べています。 しかしこれは、提携した出版社とは利害が一致しますが、再販制度で販売する取次、書店と利害が対立します。 出版社がどのような舵取りをするかがポイントになります。
もうひとつ、今回の提携で筆頭株主になるのは、実は大日本印刷グループです。 大日本印刷は、ブックオフ出資の狙いを「1次流通(新刊)と2次流通(中古本)の健全化」と明言しているそうです。 4割という返品率の高さを最大の問題と見なしています。このような流通の非効率を改善する仕組みを構築したいと述べています。
今後
これらの狙いはまだ白紙です。外野の予測に止まる指摘もあります。 ただ、これから、出版業界は間違いなく変わっていくことになると思います。 今回の提携では蚊帳の外であった取次や書店も、無関係ではいられません。 まだ、具体的な結果は出ていませんが、これを契機に、出版業界が発展に向かうことを願っています。
参考
- 業界動向 – SEARCH.com