多くの業界で注目を集めるAI(人工知能)ですが、建設業もその例に漏れません。その背景には人手不足や業界の将来についての不安が大きいこともあり、政府も改革へと動き出しています。AIによって建設業がどのように変わっていくのか、今回は特に「働き方」に着目しながら見ていきましょう。

建設業における「働き方」のいま

近年、政府が強力に推進していることでも知られる「働き方」改革ですが、建設業の現状は他の業界と比べて良好といえるものではありません。象徴的なのが、多くの現場で週休2日制が未だ実現されていないことです。また、残業についてもいわゆる「36協定」にある「月45時間、年間360時間」という上限がそもそも適用されず(大臣告知の「工作物の建設等の事業」に相当)、結果的に2015年度の総務省による統計では、労働者の1割強で、月の残業時間が60時間を超え、49時間以上とあわせると全体の4分の1以上となっています。

当然ながら、こうした状況は業界全体にとって好ましくありません。熟練技術者の高齢化や労働力人口そのものの減少が見込まれている状況で、「長時間労働」は若手人材の確保に極めて不利だといえるでしょう。しかしながら、こうした残業が発生している理由について、国土交通省による調査(2010年)では「前工程の工事遅延」と「無理な発注」も環境的制約とともに挙がっており、改善のためには企業側だけではなく発注者をも巻き込んだ施策の必要性がもとめられています。

政府が推進する「i-Construction」

こうした状況を変えるため、政府もイノベーション推進の取り組みを始めています。国土交通省は働き方改革や地域社会の活性化についてとりまとめた「社会資本整備におけるイノベーションの推進」資料で具体的に言及しています。なかでも核となるICT(情報伝達技術)やAIなど最新技術の活用については「i-Construction」という名前で詳細がまとめられています。
資料によると「生産性の向上」こそが今後の建設業が成長していくためのキーポイントであるとし、この実現のためには天候に左右されやすい現地での作業(現地屋外生産)や作業者の労働力に頼る割合が大きい(労働集約型生産」といった建設業界が従来から持つ課題の打破が必須であるとしています。

このために活用されるのがICTなのですが、「i-Construction」のポイントは、ICTで製造業改革を推進するドイツの国家プロジェクト「インダストリー4.0」に代表され、世界的な潮流となっている製造業の手法を建設現場に取り入れるとしていることです。建設現場を製造業の「最先端の工場」のように捉え、ICT導入により品質管理と工程管理を徹底することで生産性を高めることが特徴です。

具体的な達成のための施策としては「ICTの全面的な活用(ICT土工)」、「全体最適の導入(コンクリート工の規格の標準化等)」、「施工時期の平準化」 の3つが重点施策(トップランナー施策)として設定され、2025年までの生産性2割向上という具体的な目標に向けたロードマップが設定されています。
この取り組みの重要な点は、現場の生産性を向上させることでひいては安全性や賃金水準の向上、多様な人材がより創造的な業務で活躍できること、といった建設業界を抜本的に改善していくことが最終的な目的として明言されていることだといえるでしょう。

膨大な作業をAIが強力に支援するBIM

政府もICT土木として重点施策の最初に言及しているように、建設現場の全面的な「3D化」はもっとも重要なキーワードといえそうです。国内でこのプロセス改革に取り組んでいるトップランナーとして挙げられるのが大手ゼネコンの鹿島です。同社は3次元での設計・施工のシミュレーションを可能とするBIMの全面的な導入を極めて短期間で実施、2017年4月には専門会社を分社独立させています。
BIMとは「ビルディング・インフォメーション・モデリング」の略称で、3次元の建物のモデルにコストや管理に必要なさまざまな情報を付加することで、より効率的かつ多角的な設計・施工を進めるためのワークフローです。

そもそも実際の工事を行なうための実施設計は、建設のワークフローのなかでも非常に負荷の高いプロセスで大量の図面が必要とされているものです。これまでにも多くの現場でCADの導入は進んでいましたが、図面が電子化されているだけで、個々の設計が互いに競合しないかといった検証・修正作業は人手で行わなくてはなりませんでした。
BIMではAIの技術を取り入れることにより、人間が行なっていた膨大な組み合わせとチェック作業を自動化し、複数の図面が3Dによって統合的にモデリングされるだけにとどまらず、材料や法規制などの情報を膨大なデータベースから拾い上げ関連づけることが可能になります。

こうした情報は施工までに必要不可欠ですが、従来の手法では「図面を見ているだけ」では判断が難しかったものです。BIMはそれらを統合することによって設計から施工、さらには修繕までのプロセスを1つのプラットフォーム上で管理できるというのが最大のメリットです。さらに、鹿島では3Dモデリングをベースにクライアントと詳細を詰めることで施主とのやりとりを活発にすることにもつながったとのこと。同社は本ソリューションの専門会社を立ち上げたことで、ゆくゆくは海外展開も視野に入れた日本初のBIMサービスプロバイダーを目指しています。

ICTは現場の助けにも

急速な進化を遂げるAIは人間から仕事を奪うのでは、といった声もちらほら聞かれます。しかし、ここまで見てきたようにAIは単純ながら膨大な作業を肩代わりしたり、熟練工しかできなかった作業をより容易にしたりする面もあります。今後こうした最新技術の支援で、建設の現場はよりフレキシブルに人材を活用できるようになり、新しい働き方が実現されていくことでしょう。

G-Searchでもっとサガス

記事本文で紹介した、AIなど最新技術を活用した建設業の「働き方」は、具体的にどのように変わってきているのでしょうか。AIやIOTを導入した建設業での働き方改革の事例を、専門紙や地方紙に掲載された各社の取組みから探してみました。

建機の自動化システムを開発(鹿島)

鹿島は、建設機械を多く使うダム建設現場をフィールドに、建機の自動化システムを開発した。堤体の施工に使う振動ローラー、ブルドーザー、ダンプの自動化を実現。熟練オペレーターと同等の仕上がりや施工パターンを見いだすためにAIを活用しているという。

日刊建設工業 2017年7月31日記事より

建設現場へのロボット導入(清水建設)

現場へのロボットの導入もAIが支えている。清水建設は、自律型ロボットと建機を組み合わせ、溶接、天井、搬送作業を行うシステムを開発した。各ロボットはAIやIoTで所在位置や施工対象物を認識しながら自律的に稼働する。18年に関西地区の高層ビルの建設工事に導入する。

日刊建設工業 2017年7月31日記事より

建設現場での出来形確認(NTTコムウェア)

建設産業向けのAI関連サービスの事業化を目指すNTTコムウェアは、「ディープラーニング画像認識プラットフォーム」でインフラ設備の老朽・劣化度合いを判定するシステムを提案。建設現場での出来形確認や新築建物の竣工検査などへの活用も模索する。

日刊建設工業 2017年7月31日記事より

ドローンを使った測量(三陽技術コンサルタンツ)

藤岡市の道路予定地の上空をUAV(無人航空機)が飛んだ。測量、地質調査などを手掛ける三陽技術コンサルタンツが、行政関係者らを招いた実験だ。搭載したデジタルカメラで空中から写真を撮影し、その画像上で測量すると、地上を歩いて行う従来の方法とほとんど変わらない結果を出すことができた。

上毛新聞 2017年3月2日記事より

※このコーナーでは「G-Searchデータベースサービス」の新聞・雑誌記事検索を使い情報を探しました。

参考