ビール類の安売り規制強化を目的とした改正酒税法が2017年6月1日から施行されました。スーパーやディスカウントストアなどビール類の小売現場では、一部のビール類銘柄を10%以上値上げした企業がある一方、小幅な値上げに止めた企業があるなど、対応のバラツキが見られています。改正酒造法は今後どのような影響をビール業界に与えるのでしょうか。

ビール値上げ、改正酒税法の狙いとは?

「改正酒税法」とは、2016年5月27日の参議院本会議で成立した「酒税法」の一部改正と「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(酒類業組合法)」の一部改正の総称です。

仕入れ値に運送費や人件費などを加えた「総販売原価」を下回る価格で酒類を販売することを原則禁止しており、行き過ぎた安売りを規制し、小規模な酒販店を保護することを狙いとしています。

「酒税法」の一部改正には酒類製造・販売業免許取消しの罰則規定が、「酒類業組合法」の一部改正には酒類の価格設定など「公正な取引の基準」(酒類の公正な取引に関する基準)がそれぞれ新たに盛り込まれたのが特徴です。

この新基準において槍玉に挙げられているのが「リベート(販売奨励金)」です。ここで言うリベートとは、ビールメーカーが販売に力を入れてくれる小売店へ払うお礼で、小売店の値下げ販売の原資として使われていました。

リベートはビールメーカーの場合は「小売価格を維持したまま、販売協力の度合いに応じて小売店にインセンティブを与えられる」、小売店の場合は「自分の懐を痛めずに値下げ原資を確保できる」など、メーカーと小売店の双方にメリットがあるとされています。

ところがリベートは販売力の大きい小売店が対象となり、中小規模の販売店や地域の酒店はこうしたリベートの恩恵を受ける機会が多くはありません。そこから「このリベートこそ不当廉売(行き過ぎた安売り)の源泉。リベートを排除しなければ公正取引が担保できない」という、公正取引委員会および国税庁の見解があるともいわれています。このため、ビール業界のなかには、「新基準はリベート潰しが狙い」との見方もあります。

地域の酒店には恩恵があるのか? 実施後の声

こうした改正酒税法については、2016年5月の法律成立直後から批判的な意見が多く出されています。

そもそも、規制の建前は中小規模の販売店、地域の酒店の保護にありましたが、それらの小売店からも「結局、大手スーパーはリベートがなくとも、大量仕入れで仕入れ値自体を下げさせるのだから、価格で対抗するすべはない」。という声が上がっています。

実際に、約12%の値上げをした小売店がある一方で、施行後の値上げ幅を約1%程度にとどめる大手スーパーもあり各社の対応は分かれています。規制対象となる「安売りの基準」が各社の解釈によって変わることや、大手ほど取扱い規模を活かすことで安い価格設定ができることもあり、中小小売店との価格差が開く結果にもなっているようです。

結果、新基準適用によりリベートが排除されても、本来の目的であったはずの「小規模な酒販店の保護」にはあまりつながらず、ビール類の値段が上がることで、消費者がしわ寄せを受けるだけなのではないかという見方が、現在は大勢を占めているようです。

今年が正念場?ビールメーカー各社の戦略

ビールメーカー側には、改正酒税法の影響でビール類全体の需要が落ち込むことへの懸念があります。

もともと、ビール類の販売数は右肩下がりの傾向にありました。国税庁の「酒類販売(消費)数量の推移」によれば、「ビール」は1994年の705万7000klをピークに年々減少、2015年は266万6000klで、ピーク時の約38%にまで縮小しています。こういった状況の中で、改正酒税法の影響がさらなる向かい風になるのではと考えられているのです。例えば、ビール類の需要が、女性や若者の間で人気が高い缶チューハイ、缶ハイボールなどにシフトしてゆく可能性があります。

このため、ビールメーカー大手各社は、それぞれ対策を考えています。例えばアサヒグループホールディングスは「スーパードライの両輪となる新ブランドの育成」、キリンビールは「地域ごとに味が異なる『47都道府県の一番搾り拡販』」などの販売戦略を打ち出し、2017年はこれらの戦略を市場に浸透させる正念場としているようです。

これまでの価格競争ではなく、ビール類にどのような付加価値をのせられるかが、ビールメーカーが今後の市場で勝ち残る鍵になると予測する声もあります。

今後の予測はまだ流動的

ビール大手4社の2017年5月のビール類販売量は、改正酒造法施工前の駆け込み需要で前年同月比9~16%の大幅増。しかし、6月は一転して買い控えによる前年同月比減少が予測されています。
ビールは「酒類の王様」と呼ばれるほど個人消費量の多い大衆的な酒。このビール消費に改正酒税法がこれからどのような影響を及ぼすのか、現時点では流動的な要素が多く、まだまだ的確な予測が不可能な面があります。今後の成り行きが注目されるところです。

参考