AI技術を活用した研究者探索ツール「JDream Expert Finder」のリリースを記念し「ビッグデータの利活用によるオープンイノベーション戦略~技術課題を解決に導く共同研究者探索」と題し、オープンイノベーションや、共同研究者(パートナー)探索、共同研究における課題などをテーマに産学官各界の有識者がそれぞれの立場における取り組みについて講演するセミナーが9月10日(大阪会場)、13日(東京会場)で開催されました。今回は9月13日の東京会場(東京駅:ステーションコンファレンス)の模様をレポートします。
9月13日の東京会場は、台風15号の影響がまだ残るなかであったにもかかわらず、多くの方が参加され関心の高さを感じました。また、台風の影響で会場に来られなかった方には心から見舞い申し上げます。残念ながら、当日ご参加がかなわなかったかった方にも講演資料をご提供いたします(準備出来次第、お申込み時にご登録いただいたメールアドレス宛にお知らせいたします。)ので、セミナー参加登録をされた方はしばらくお待ちいただければ幸いです。
ビッグデータを活用したオープンイノベーション~AI 戦略による産業競争力加速の取り組み~
奥野 恭史 氏 京都大学大学院 医学研究科 ビッグデータ医科学分野・教授
LINCでは、各製薬会社とIT会社が、創薬のプロセスごとに数十もの開発を同時に進めている。一例として、化合物の設計過程のAI化状況を紹介。薬を創る際には、膨大なパターンの化学構造を試して薬効があるか、副作用がないかを実験で評価しなくてはならないが、AIを使って効率化、無駄を省く試みを紹介した。
また、世界の創薬事情について、海外ではデータのシェアリングが始まっている。日本は第三次産業革命には乗り遅れたが創薬AIはこれから(日本が創薬AIで勝てる余地はまだある)。日本もアカデミアの研究から、実際のビジネスに活用し、エコシステムがまわるようにしていかなくてはならない時期にきているとした。
ライフサイエンスにおけるAI活用の課題として、創薬AIで(日本が世界に)勝つためには、データが重要。今回、LINCの研究成果を研究者探索サービス「JDream Expert Finder」を製品化できたのは開発会社であるジー・サーチにデータがあったからだ。
2030年に日本製品のAIが創薬の現場で活躍しているよう一層LINCの活動を推進していく。しかし、助成金だけでは限界がある。産業界も本腰入れて取り組んでいただきたい。
ビッグデータ時代の産学連携
荒木 寛幸 氏 文部科学省 科学技術・学術政策研究所 第2調査研究グループ 上席研究官
産学官連携について現状の課題について「官」の視点から紹介した。
研究者のマッチングについて、URAなど大学機関の課題として、(個人の人脈による為)情報の偏りや鮮度に問題がある。その為、企業が望む今まで会っていない(若手)研究者と出会えないといった、企業ニーズと大学のシーズがマッチしていない事が多々あるとした。また、企業側も企業自身の課題が抽出できておらずあいまいな点も問題とした。
これらの課題解決の一つとして、個人のスキルに依存した産学官連携からの脱却を提唱、データを駆使した現状把握が必要。そういった現状分析に、JDream3といった科学技術文献データベースや、今回リリースされた研究者探索サービスを活用しマッチングの効率化をしてほしいとした。
科学技術振興機構(JST)における産学連携支援
笹月 俊郎 氏 国立研究開発法人 科学技術振興機構 産学連携展開部 部長
科学技術振興機構(JST)がこれまでコーディネートしてきた産学官連携からの知見と、提供している支援サービスについて紹介した。
リアルによるコーディネートと共に、バーチャル(ネット)の支援サービスを紹介。
「J-STORE」はJSTが大学・国公立試験研究機関等から収集した特許情報やJSTの基礎的研究等の特許情報等を提供する無料のデータベース。「J-STORE」は、未公開特許も検索できるので研究者探索に是非活用いただきたい。また、研究成果最適展開支援プログラム「A-STEP」の支援内容についても紹介した。
現状、研究者マッチングは、出会いや人脈といった人に依存している。また、(訪問いただく)物理的限界などがある。
そういった、課題にビックデータを使ったサービスは、研究者探索ツールの活用で客観的な視点もデータから見えてくる。AI(を活用したサービス)と(従来型の)人との連携で研究者のマッチングがより良くなる事を期待しているとした。
バイエルのオープンイノベーション
八代 好司 氏 バイエル薬品株式会社 オープンイノベーションセンター シニアアライアンスマネージャー
バイエルの産学官連携の事例を紹介。
バイエルは世界各国で大学・研究機関との共同研究を実施している。創薬は莫大な資金と年月を掛けても失敗する事がある、難しいもの。
提携が失敗する主な原因として3つあるが、そのなかで半数が人間関係。逆に言えば、人間関係で失敗しなければ、成功確率は飛躍的に上がると考え、バイエルではアライアンスマネージメントを重視している。
日本の事例として、京都大学との共同研究の例を紹介。人間関係の重視から、事前の理解とマッチングにかなり時間をかけた。
研究者を探す方法として、LINC PJ08では、著者ネットワーク中でのハブとしての成長性を見る方法をに着目。LINCでプロトタイプを創製したビックデータを活用した研究者探索ツールがジー・サーチ社にて実用化されたことで、若手研究者の発掘がされることを期待したいとした。
JDream Expert Finderサービス概要
株式会社ジー・サーチ
3,800万件を超える科学技術論文や学会発表から約100万人の研究者ナレッジベースを新たに構築。ナレッジベースを活用した研究パートナー探索サービス「JDream Expert Finder」を2019年8月30日より提供開始。「JDream Expert Finder」のサービスを紹介した。
これまで登壇された産学官各界の有識者も指摘している共同研究者を探す上での課題を踏まえ、担当者自身で探せるツールの必要性を実感。ジー・サーチでは、日本の科学技術の振興に貢献すべくパートナー探索プラットフォームのラインナップを構築提供している。
研究者の採択課題データベース「COLABORY(コラボリー)」、採択されなかった科研費等の申請を産業視点で再評価する「L-RAD」、そして、今回リリースした過去の発表実績から研究者を探索できる「JDream Expert Finder」を紹介した。
そして、「JDream Expert Finder」の実際のサービス画面を使い、技術課題やキーワードでの探索や有望な研究者を探索できる機能など、主な機能の説明をおこなった。人脈マップからハブとしての中心度や、論文数、成長性グラフから今後を予測したりなどが判断できる。
研究者探索ツール「JDream Expert Finder」により、パートナー探索に客観的な指標を入れる事で、共同研究の更なる効率化と成功に役立てていただきたいとした。