現在、国内のビール出荷量は14年連続で減少し、アルコール飲料業界では消費者の「ビール離れ」が深刻化しています。しかし、アルコール業界全体が不調というわけではありません。家庭向けのRTD飲料市場は順調に成長しており、また、日本酒をはじめとする酒類の海外輸出額も大幅に増加するなど、活況を呈する商品ジャンルもあるのです。
本記事では、低迷するビール市場に比べ、なぜRTD飲料や日本酒は好調な売り上げを達成できているのかを解説していきます。

過去最低出荷量を記録したビール業界 安売り規制が影響か

2019年1月、国内大手ビール製造5社は、2018年の発泡酒と第三のビールを含むビール類の出荷量が3億9390万ケースと前年比2.5%減になったと発表しました。1992年の統計開始以来、初めて4億ケースを割り、14年連続となる過去最低出荷量を記録したことになります。

安値競争を抑えるための規制が裏目に

ビール出荷量が減少した背景要因には、酒の安売り規制強化を目的に改正された酒税法の存在が挙げられます。これまでスーパーや量販店などの店頭では、集客のために原価を下回る価格でビールを安売り販売することがしばしば見受けられました。安売り規制強化は、こうした過度な安値競争から個人経営店など中小規模の酒屋を守ることを狙ったものです。
しかし、安売り規制をおこなったことでビールの販売価格は値上がりしてしまい、ビール市場規模の縮小に自然と拍車がかかってしまう結果となりました。6缶パックのビールは1割前後値上がりし、飲食店向けのビールも値上がりしたため、居酒屋などで提供されるビールの販売価格にも影響が出ました。結果的に、割高感から消費者がビールの購入を避けるようになってしまい、スーパーや居酒屋ではビールの販売減少が続いています。
※改正酒税法の狙いについて、2017年に当サイトで取り上げた記事はこちら(酒税法のビール値上げは酒屋を救うのか?改正酒税法の狙いとは

飲みやすさとコスパの良さが大人気!急成長を遂げるRTD飲料市場

こうしたビール市場の低迷を尻目に、家庭向けのRTD ( = Ready To Drink ) 飲料市場は順調に売上実績を伸ばしています。

RTD飲料の出荷量は11年連続で増加

RTD飲料とは、割り材などを使わずに「開けてすぐに飲める」飲料の総称で、チューハイやカクテル、ハイボールなどの低アルコール飲料などがこのカテゴリに該当します。
2018年の総出荷量は、前年比112%にあたる2億492万ケースと、初めて2億ケースを突破し、11年連続で前年を超えました。2009年から10年間で約2倍以上の市場規模に成長し、2019年は2億2,637万ケース(前年比110%)に拡大すると予想されています。特にアルコール度数が7~9%の「ストロング系」の商品が大きく販売金額を伸ばしています。高アルコール商品は「酔いやすい」というコスパの良さが魅力で、ワインや焼酎を飲んでいた層などにも拡大しています。

ビールより安く、家飲みにもピッタリ

RTD飲料が人気を集める理由は大きく分けて2つあります。
1つ目は、RTD飲料がビールなどの他アルコール飲料と比べて、比較的安価な価格で販売されているという点です。RTD飲料はスーパーなどでは100円程度で販売されているケースもあります。このように低価格志向の消費者ニーズとマッチしている点が消費者から多くの支持を獲得している理由のひとつだと考えられます。なかでも、ストロング系のチューハイ缶は、350mlで140円程度の価格でありながら、アルコール度数が9%程度と強めであるため、低価格で手軽に酔えるという点が大きく評価されています。
2つ目は、RTD飲料がいわゆる「家飲み」と相性が良いという点です。
RTD飲料がもつ果汁感はさまざまなジャンルの料理と相性がよく、家族や友人が集まる食事の場などでも好まれやすくなっています。特に、ドライフレーバー系の商品は甘さを抑えているため、食事中にも飲みやすいというメリットがあり、本格志向のチューハイ感も同時に楽しめるため、食中酒としての用途で飲まれることが多いようです。

和食人気で高まる需要!日本酒の海外輸出額が大幅増加

国内のアルコール市場ではRTD飲料が大きな存在感を放っていますが、一方で、海外展開という点で日本酒に大きな注目が集まっています。

清酒の輸出額は9年連続で過去最高を更新

全国約1,730 の蔵元が所属する日本酒造組合中央会の発表によれば、2018年度の日本酒輸出額は222億円と過去最高を記録、10年前と比べると約3倍にまで拡大しました。9年連続で過去最高額を達成しています。
ただし、この数値には訪日外国人が日本国内で購入した土産物の金額を含んでおらず、実際には数値上よりも多くの日本酒が海外に普及しているのではないか、という見方もあります。

海外の「和食ブーム」が需要の追い風に

日本酒の海外輸出量が増加している一因に、世界的な「和食ブーム」の高まりから、海外の日本食レストランを中心に需要が広がったことが挙げられます。
2015年夏時点で海外の日本食レストランはおよそ8万9000店舗存在するといわれています。これらの店では寿司などの料理と一緒に日本酒をセットで提供する販売スタイルが定着しており、そのため、日本酒の需要が増加したのだと考えられます。
また、クールジャパン政策の一環として政府と民間企業が協働して輸出促進に取り組んできたということも大きな要因でしょう。
特に政府は主食米の国内消費が低迷を続けるなか、新たな米の活用方法として日本酒の製造・販売に大きな期待を寄せています。2017年の税制改正大綱には、訪日外国人が酒蔵で日本酒を購入した際にかかる酒税を免除する制度を組み込むなど、今後も国家的規模で日本酒の海外輸出を支援していく方針です。

RTDと日本酒がアルコール業界を活性化する?

国税庁が2016年3月に発表した「酒のしおり」によれば、大人1人あたりのアルコール消費量は1992年の101.8リットルをピークに、2014年には80.3リットルにまで減少しており、アルコール業界にとって厳しい市場環境が続いています。
RTD飲料や日本酒を販売戦略の軸に据えることで業界全体の巻き返しを図っていけるのか、今後も注目されそうです。