アメリカでは、Facebook、Apple、Amazon、Netflix、GoogleのIT大手5社を「FAANG(ファーング)」と呼びます。これらの企業は2018年10月には、Appleに続きAmazonが時価総額1兆ドルを達成するなど勢いを持ち、米株式市場全体の1割強を占めています。
そして、いま投資家のなかでこれらの企業に続くと期待を持たれているのがSpotify、Lyft、Airbnb、WeWorkの通称「SLAW」と呼ばれる4社です。
今回は、そのなかでも新たな働き方を提供している「WeWork(ウィーワーク)」を紹介します。

WeWorkが注目される理由

WeWorkの創業は2010年。アメリカ・ニューヨークに本社を持つ「コワーキングスペース」を運営する企業で、2018年8月時点、世界23国の77都市287拠点で26万人以上の会員に対してサービスを提供しています。日本でも2018年2月よりサービスを開始しています。
近年は売上高が毎年ほぼ倍増し、2017年には約1千億円に達しました。企業の評価額は、2017年7月の段階で200億ドル(約2.3兆円)と言われています。

全世界でコワーキングスペースを提供する企業は、WeWorkだけではありません。それにもかかわらずWeWorkが注目を浴びている理由は、機能的で快適なワークスペース、活気のあるコミュニティ、多様な提供サービスそして、開設までのスピードなど挙げればきりがありません。
これらのサービスはすべて「世界中のクリエイターの働き方を変え、彼らのコミュニテイの活性化を図る」という同社におけるミッションのもとに提供されているものなのです。

WeWorkが提供するプラットフォームサービス

利用者それぞれの要望や働き方に合わせ、オープンスペースの席だけ、ワンフロア、ビル一棟などフレキシブルな対応をしています。最近は特に大企業向けのサービスを加速させています。当初は、会員のほとんどがスタートアップ企業やフリーランスなどでしたが、この1~2年で大企業の会員が増加し、現在は全体の25%を占めています。大企業の割合は今後ますます拡大すると予想されています。
グローバル企業はWeWorkとパートナーシップを結ぶことで、世界各地にあるWeWorkのワークスペースを利用できるようになり大幅なコスト削減が実現できるでしょう。

そして、WeWorkは、ワーキングスペースを提供するだけではありません。WeWork JapanのCEOであるクリス・ヒル氏は、「WeWorkはコワーキングスペースではなく、グローバルコミュニティである。スペース事業は我々の仕事の一部でしかない」と話しています。人々がコミュニケーションを重ねていくことで新たな働き方や、新しいアイディアを生み出すことのきっかけをつくるための場所をWeWorkは提供しています。
ITの世界では人・モノ・カネ・情報などを結びつける機能をプラットフォームと呼びますが、WeWorkは会員同士をビジネスの面で結びつけるプラットフォームとしての機能をコワーキングスペースに追加しました。
ビジネスに直結する勉強会や講演などのイベントを開催したり、会員用SNSアプリを提供したりと、会員間の交流を推進し、WeWorkにおいて人的ネットワークが構築されることで、会員間での取引や協業など新たなビジネスが広がっています。
また、オフィスでの人の動きなど膨大な情報を分析し、よりコミュニケーションがとりやすい空間を設計しています。ソファーなどが配備された居心地の良い共用スペースや、コーヒーやお茶などが自由に飲めるカウンターなど、人が自然と集まる場所を作ったり、すれ違う相手との会話が生まれるように廊下の幅をデザインしたり、空間においても交流を促進するための配慮がされています。

日本上陸はソフトバンクとの合弁会社で

2017年8月24日、WeWorkはソフトバンクグループとソフトバンク・ビジョン・ファンドより計44億ドル(約4,800億円)の出資を受け入れると発表しました。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は出資を行ったことに対し、「WeWorkが市場と地域を横断して事業を拡大し世界の生産性に新しい波を起こす、それを支援することに興奮している」とコメントを出しています。
そして、ソフトバンクとWeWorkによる合弁会社を設立し、2018年2月より東京でサービスを開始しました。国内では10月現在、六本木や丸の内、日比谷など東京の都心部に6拠点を展開。年内には横浜、大阪、福岡にも進出する予定となっています。
ソフトバンクと合弁会社をつくることになったきっかけは、2016年1月に開催された、インドのモディ首相が主催したスタートアップ企業と投資家をつなぐイベントの場でした。WeWork創業者の一人であるCEOのアダム・ニューマン氏と孫正義氏が意気投合し、孫氏に日本進出を強く勧めたことで今回の合弁会社設立に至ったといいます。

そこに集うものとともに新たなイノベーションを

「さまざまな国でサービスを展開しているが、その国の文化や働き方を変えることが目的ではなく、働き方が変わるチャンスを提供することで、そこに集うものが新たなインパクトを生み出すことが重要である」と、クリス・ヒル氏は話します。
コワーキングスペースのメリットとして、オフィスコストの削減を第一に考える方は多いでしょう。しかし、WeWorkが本当に提供したいものは、単なるコスト削減ではありません。異業種同士がスペースをシェアすることで新たな事業が生まれる、スタートアップ企業と大企業がコミュニケーションを図ることで今までにないアイディアが生まれる、といった新たなイノベーションです。
今後、日本でも積極的な展開を始めるWeWorkとともに、日本企業がどう変わっていくかに注目です。