政府は2017年3月10日の閣議で、「民泊」の全国解禁に向けた「民泊新法」(住宅宿泊事業法)を決定しました。民泊新法は2018年6月から施行され、都道府県などに届け出て認められると、年間180日まで自宅やマンションなどの空き部屋に有料で人をとめられるようになります。

こうした法整備で、民泊ビジネスは「安全なビジネス」に育つのでしょうか。また、そこにはどのようなビジネスチャンスがあるのでしょうか。

民泊新法の概要

政府が民泊ビジネスの合法化に踏み切ったのは、全国で民泊が増えるなか「民泊サービスの健全な普及」を目指すために、ルール作りが必要になったからです。

民泊新法の概要は次の通りです。

  • 住宅宿泊事業者の届け出制度と、住宅宿泊業および、住宅宿泊管理業の登録制度を新設する
  • 住宅を営業宿泊に提供できる上限は、年間180泊
  • 住宅宿泊事業者には衛生管理、宿泊者名簿の作成、民泊住宅と分かる標識掲示などを義務付ける
  • 空き家利用の住宅宿泊事業の場合は、住宅宿泊管理事業者に同様の義務を負わせる

民泊が増える背景

民泊専門メディア「Airstair」が2017年4月28日に発表した『民泊物件レポート2017年4月』によると、国内の民泊物件数は2017年3月末現在、前年同月比63%増の4万3,000件超となっています。

どうしてここまで民泊が増えているのでしょうか?

これに関して、民泊仲介サービス世界最大手のAirbnbは、2017年4月24日に発表した『日本における短期賃貸に関する活動レポート』の中で、次のように報告しています。

  • 2016年に日本国内のAirbnb登録民泊事業者が創出した利益は4,061億円であり、その経済波及効果は9,200億円と推計される。この経済波及効果は2015年比約1.8倍に達する
  • 同年のAirbnb登録民泊事業者の年間収入は平均100万4800円だった
  • 同年のAirbnb登録民泊事業者の営業日数は平均89泊で、合計370万人以上(前年比2.7倍)の訪日旅行客がAirbnb登録民泊事業者の住宅に宿泊した。一人当たり平均宿泊数は3.4泊だった

民泊ビジネスが現在の「特区民泊」(旅館業法の特例)による「部分的合法化」の下でも、これだけの活況を呈しているのはなぜでしょうか。その背景は次の2つと見られています。

「シェアリングエコノミー(共有型経済)」の認知度向上

シェアリングエコノミーとはソーシャルメディアの発達により可能になったモノ・サービスの共有により成り立つ経済の仕組みのことです。その具体例が、需要が伸びている戸建て賃貸住宅のハウスホームシェアリングサービスや自動車のカーシェアリングサービスなどです。民泊は経済学的には「短期のルームシェアリングサービス」とされているようです。

訪日旅行客の急増と宿泊施設不足

国際観光振興機構(日本政府観光局)の統計によると、2016年の訪日旅行客数は前年比21.8%%増の約2,404万人。2013年に1,000万人の大台突破以降、年平均30.5%の勢いで増加。このため、宿泊施設不足が顕著になり、ホテル、旅館など既存の宿泊施設の客室稼働率は平均80%を超える状況です。

訪日旅行客の利用が多い宿泊施設は、当然のごとく需給の関係で宿泊料金は高止まりし、必然的に「民泊市場」が生まれてきたようです。

民泊ビジネスの問題点

その一方で、民泊ビジネスの問題点も浮上しています。

厚生労働省が2017年3月1日に発表した『全国民泊実態調査結果』(民泊仲介サイト登録物件の旅館業法許可状況)には、以下の調査結果が挙がられています。

  • 旅館業許可営業:2,505件・16.5%、旅館業無許可営業:4,624件・30.6%、物件特定不可・調査中等:7,998件・52.9%
  • 無許可営業の物件タイプの内訳:マンション等共同住宅54.2%、戸建て住宅35.9%、その他9.9%
  • 民泊仲介サイトに登録されている物件の52.9%は住所記載が不正確で、物件の特定ができなかった
  • 許可営業物件の営業種目は簡易宿所営業が67.9%で最多。特区民泊は2.0%だった

この調査結果からは、

  • 現在の民泊の実質的受け皿は風呂・トイレ共同、二段ベッドなど、必ずしも快適といえない簡易宿所が担っている。
  • また、現在増加中の民泊仲介サイトの中には、登録物件の住所さえ把握していないなど杜撰な管理が多く、民泊サービスの信頼性を損ねる可能性がある。

などの状況がうかがえ、「民泊サービスの健全な普及」に問題を投げかけています。

伸びる民泊ビジネス

民泊ビジネスはさまざまな問題を内包しながらも着実に伸び続けています。
例えば、前述の民泊専門メディア「Airstair」が2017年12月28日に発表した『東京民泊マーケット市場レポート2016』によると、「東京の2016年10月の民泊物件数は1万4,252室に達し、前年同月比2.4倍増になった。物件数は今後も増加が予測され、2017年4月には1万8,000室を超える見通し」としています。

この勢いを背景に、民泊情報ポータルサイト、居住用住宅・空き家の民泊施設向けリフォーム、民泊向け清掃代行サービスなど「民泊関連ビジネス」も、例えば以下のように活性化の様相を見せています。

  • 格安航空券予約サイト「skyticket」は同サイト内に民泊仲介サービスの「skyticket 民泊」を開設、2016年6月8日から営業を開始
  • 投資用マンション・アパート開発のシノケングループは、民泊対応型の投資用アパートの販売を2017年5月から開始。同社は今後、年間50棟の民泊対応型投資用アパート開発を目指す
  • 不動産流通サービスのハウスドゥは、空き家・空き地所有者を対象に、遊休資産の有効活用を支援するサービス「空部屋Do!」を2016年4月より開始。民泊対応可能なリフォームも提案していく
  • 総合ポータルサイト運営のエキサイトは、民泊事業者と清掃代行事業者のマッチングサイト「エキサイト民泊」を2017年4月に開設

一方で、民泊利用者との近隣住民とのトラブルや、事件・事故も起きています。今後法整備も進み、ますます利用者が増えると思われる民泊ですが、同時に増えると考えられるトラブルへの対応が今後の課題になると思われます。