農作物の生育データをクラウド上で一元管理するシステムや植物の苗を自動で接ぎ木していくロボットなど、現在、農作業にドローンやAIなどの先端テクノロジーを取り入れる「スマート農業」が急速に市場発展を遂げています。2020年までに市場規模は約700億円に達すると予測している調査会社もあり、今後一層の成長が見込まれている分野です。

このように市場成長を遂げた背景には一体どのようなものがあるのでしょうか?
本記事ではスマート農業の魅力とその可能性について、具体的事例とともに紹介していきます。

スマート農業が目指すものとは?

まずは、スマート農業の導入によって農家がどのようなメリットを得られるのかを解説します。

農作業の効率化と、人件費の削減が可能に

農家が先端テクノロジーを取り入れスマート化を図ろうとする目的のひとつは、農作業の効率化です。
例えば、省力化を狙ってIoTを活用した水田管理システムを導入する米作り農家などはその典型例といえるでしょう。

このシステムは水田に接地したセンサーが水位や水温を自動測定するというもので、測定結果はスマートフォンなどの端末に送信されるようになっています。直接人間が水田の様子をチェックする必要がなくなり、農業経営を効率的に進めることができるのです。

また、作業の一部自動化に伴い、余分な人件費を削減することも可能です。農作物の生産コストを抑えることができるため、安価な輸入作物への競争力を高める有効な対抗手段としても注目されています。

農業従事者の高齢化対策にも

スマート農業は、現在国内で深刻化しつつある農家の高齢化が生む問題の解決も可能とするかもしれません。
例えば、農業では重い荷物を運搬したり、中腰になって作業したりする機会が多くありますが、これらは高齢者に対して多大な負担がかかります。そこで、荷物の持ち上げをサポートする補助器具があれば、それを装着することで、身体への負担を大きく軽減することが可能です。

こうした補助器具の一例として、株式会社スマートサポートが開発する「スマートスーツ」があります。スーツの背部にあたるゴムが装着者の腹部を締め付けることで上半身の動きをサポートするという仕組みで、高齢者が腰を痛める危険性を減らせます。

また、スキューズ株式会社が今開発に取り組んでいるトマトの自動収穫用ロボットも、高齢者の負担軽減に貢献する可能性があります。こちらのロボットは搭載されたカメラでトマトの位置を把握し、ハサミを伸ばして果実を収穫するというものです。実用化されると収穫の際の労力を大幅にカットできるとして期待されています。

国内メーカーによるスマート農業の開発事例

ここからは国内メーカーが開発を手がけるスマート農業関連プロダクト・サービスを取り上げて、これらの導入により農業がどのように変化するのかを紹介していきます。

ドローンと自動走行車を組み合わせた肥料散布システム:株式会社クボタ

株式会社クボタ(以下、クボタ)は、国内の農機メーカーのなかでも早期からスマート農業用テクノロジー開発に取り組んできた企業のひとつです。
そのクボタは現在、ドローンと自動走行するトラクターを連携させて運用し、広大な敷地面積を誇る農地であっても容易な管理を可能にするというシステムを開発中です。

まず、カメラを搭載したドローンによって農作物の様子を空中から撮影し、画像をプログラムによって解析します。すると、画像の情報から農作物の生育状況が自動的に判定され、そのデータがトラクターへと送信されます。トラクターはデータを基に、どのような肥料を、どの程度、どの場所で散布すればよいのかを判断し、自動的に散布へと向かうのです。

このシステムの特徴は、自動走行車を採用することで農業経営にかかる人手を極力減らせるという点にあります。大規模農場を経営する農家は労働力の確保に悩まずに済むうえ、人件費の削減も達成できます。

クボタはさらにこのシステムに、AIを活用することで農地の形状や収穫実績などのデータを分析する機能を追加することも検討しています。
これによりAIがトラクターの走行経路や散布手順を自動的に修正して最適化するほか、長期的な経営計画についても提案してくれるなど、農地経営を包括的にサポートしてくれるようになるのです。

AIでイチゴの出荷時期を正確に予測!:キヤノンMJ株式会社

スマート農業に関心を寄せるのはクボタのような農機メーカーだけではありません。
IT分野を得意とする異業種の企業もスマート農業の盛り上がりを商機と捉え、次々に参入を果たしています。

なかでもカメラ開発を通じて培った画像解析技術を持つキャノンMJ株式会社はその代表例といえるでしょう。同社はAIによって作物の成長度を推測するイチゴ栽培農家向けのシステムを開発しています。

システムの仕組みは、ビニールハウスの天井に設置された360°撮影可能なカメラで屋内80ヶ所を撮影し、キャノングループが開発した画像解析ソフトウェアで画像解析をおこなうというものです。
ソフトウェアにはAIの学習システムのひとつである、ディープラーニング技術が活用されており、これによってイチゴの成長度を形や色から推定することが可能となっています。イチゴの成長度が出荷に適した段階に達すれば、その旨を通知してくれるのです。

このシステムを導入することにより、イチゴ農家は出荷時期について精度の高い予測を立てることができます。出荷時期について正確な予想を立てることができれば、流通業者からの信頼感が増すため、出荷先の契約数増加を目指せるようになります。

また、収穫時期を迎えたイチゴがハウス内のどの場所にあるかという位置情報は、スマートフォンやタブレットから確認できるようになっています。手元の端末で位置を簡単に把握できるため、収穫時の作業効率を上げることが可能です。

後継者不足もスマート農業で解決可能

スマート農業は、国内農家が共通して抱える後継者不足の問題を解決するうえでも重要な役割を担うと期待されています。
これまでの農業は個人の経験や勘に頼って収穫時期や出荷量を推測しなければならず、そのため農業未経験者が容易に参加できる環境にはなっていませんでした。
しかし、生育過程を客観的に把握できるシステムや出荷量を予測するAIが導入できれば、こうした状況は一変します。農家は客観的なデータに基づいて判断を下せるため、若い世代の人々でも安定した農業経営が目指せるようになるのです。
国内の農家が抱える数々の課題を解決可能なスマート農業に期待が集まります。