いまや単なるエンターテイメントの枠を超え、重要な文化のひとつとなった日本のアニメ。そのアニメを取り巻く状況に、いま、大きな変化の波が訪れようとしています。
NetFlix、オリジナルアニメの制作に乗り出す
米国の最大手動画配信サービスNetFlix(ネットフリックス)は去る8月2日、東京国際フォーラムにて初のアニメイベント「NetFlixアニメスレート2017」を開催し、現在配信中のアニメ作品や今後配信予定の作品などについて発表しました。
チーフプロダクトオフィサーであるグレッグ・ピーターズ氏は冒頭のプレゼンテーションにおいて、今年2017年が1917年に日本初のアニメ作品『芋川椋三玄関番の巻』の公開から100周年に当たる年であることに言及しました。日本のアニメが国内視聴者はもとより全世界のファンを魅了し、世界規模でアニメ需要が拡大しつつあることに触れたうえで、今後もアニメに力を注いでいくと語りました。
NetFlixは2015年秋の日本市場参入時より日本のコンテンツを世界に届けることをミッションとして掲げ、「シドニアの騎士」「BLAME!(ブラム)など、多数の魅力的なアニメ作品を配信してきましたが、今後も日本のアニメスタジオと共同でアニメ制作に注力していくようです。
「聖闘士星矢」「デビルマン」「バキ」といった国内で人気の漫画をベースにした作品はもとより、7月からコナミの名作ゲーム「悪魔城ドラキュラ」を原案とした新作アニメ『悪魔城ドラキュラ―キャッスルヴァニア―』のようなNetFlixオリジナルのアニメ作品の制作も積極的に手掛けていくということです。
海外企業の参入がアニメ制作関連事業に与える影響
ピーターズ氏によれば、NetFlixの日本の視聴者の半数以上がアニメ作品を楽しんでいるものの、それは全世界のアニメ消費量の1割にも満たないといいます。日本が最大のアニメ市場であることは事実ですが、南アメリカやイタリア、フランス、フィリピン、台湾などでもアニメは高い人気を誇り、動画配信におけるアニメの重要性は高く、今後も市場は拡大し続けていくことが予想されます。
こうした世界的なアニメ人気を受け、NetFlix以外にも日本風のアニメ作品の製作に関心を示す海外企業は少なくありません。2016年には中国メディアの新浪網が「多くの中国企業が日本で会社を設立し、アニメ制作に関与しはじめている」という記事を掲載して話題となりました。しかし、そうした市場の活況をよそに、日本のアニメ制作現場の「ブラック」振りは年々悪化する一方で、2017年にはNHKの情報番組「クローズアップ現代」で『2兆円↑アニメ産業 加速する”ブラック労働”』という特集が組まれました。
日本ではテレビ局や広告代理店、出版社などの企業が「アニメ製作委員会」を組織し、資金を出し合ってアニメを製作するのが一般的です。完成したアニメ作品から得られる利益は出資割合に応じて企業ごとに分配されるため、下請けとして実際に作業に携わる制作会社やアニメーターに十分な利益が還元されないという問題が以前から指摘されていました。
NetFlixのような潤沢な資金を持つ新たなプレイヤーの参入は、こうした現状を打開するひとつのきっかけとなるかもしれません。
フルCGアニメーションは日本市場に受け入れられるのか?
こうした流れと並行して、アニメ制作技法にも大きな変化が起こりつつあります。
従来のアニメは、1秒間に複数枚の静止画を連続して表示することによって動きを表現しています。これはアニメーターと呼ばれるクリエイターが一枚一枚手描きして制作していますが、この作業は非常に手間がかかるうえ、前述のような業界構造による低賃金化が進み、作業の担い手であるアニメーター不足が問題となっています。一方、1995年にピクサーにより製作されたトイ・ストーリーなどに代表される「フルCGアニメーション」の技法で作られるアニメ作品は、年々増加の一途を辿っています。
フルCGアニメは美麗なグラフィックやリアルな動作を再現できる点が魅力で、かつ手描きアニメに比べて作業コストを抑えることが可能です。しかし従来の手描きアニメに慣れたユーザーの目には違和感をもって映る場合があり、好き嫌いが大きく分かれる傾向にあるようです。
そこで最近注目を集めているのが、フルCGアニメに手描きアニメの良さを加えたセルルック(2D作画調)という技法です。CGアニメの利点を生かしつつ手描きアニメの味わいを再現することができる手法で、前出の『シドニアの騎士』などもこの技法で制作されています。
2017年現在、フルCGアニメを手掛けられるアニメ制作会社はまだまだ限られているというのが実情ですが、昔ながらの手描きアニメの良さを活かしつつも効率化を図れるこうした技法が浸透していけば、日本のアニメ制作関連業界の未来に良い風を呼び込める可能性はあるでしょう。
日本アニメ業界のターニングポイントとなるか
いずれにしても、日本のアニメ業界がここ数年、重要な変化点を迎えつつあることは間違いのない事実でしょう。この先10年、20年が経過した後で過去を振り返ったとき、「あのころが大きなターニングポイントだった」と言われる時代が「今」なのかもしれません。