スマホなどを通じて無制限に楽曲視聴できる音楽ストリーミングサービスが現在、世界各国の音楽市場に浸透しつつあります。なかでも業界最大規模の企業「Spotify」は、2018年上半期にアメリカ株式市場への上場を予定している注目の企業です。今後のアメリカ経済に大きな影響を与えると予想されている企業を総称する「SLAW(Spotify、Lyft、Airbnb、WeWorkの頭文字をとった通称)」の1社でもあり、その成長の勢いに期待が集まっています。
この記事では音楽ストリーミングサービスの基本知識を解説したあと、「Spotify」、そしてAppleやAmazonなど競合する企業の取り組みについて紹介します。
音楽ストリーミングサービスとは?
音楽ストリーミングサービスとは、スマートフォンやタブレットで楽曲データを受信し、逐次再生する(ストリーミング)、という方式を採用した新しい形態の音楽配信です。
スマホ、タブレットで手軽に音楽を聴き放題!
これまで自宅のスピーカーや携帯音楽プレーヤーで楽曲を楽しむ場合、CDを購入する、あるいはiTunesなどで楽曲データをダウンロードすることが一般的でした。しかし、これらには、個別に楽曲購入を行う手間が必要になるほか、ダウンロードの場合には音楽が再生されるまでしばらく時間がかかるというデメリットがあります。
音楽ストリーミングサービスは、月額料金を支払えば、楽曲が無制限で聴き放題になるサービスです。日常的に音楽をよく聴くという人にとっては、CD購入やダウンロードの手間とお金がかからなくなりますので、魅力的な環境だといえるでしょう。
「ラジオ型」と「オンデマンド型」の2タイプが存在
音楽ストリーミングサービスは大きく分けて「ラジオ型」と「オンデマンド型」という2種類のタイプに分類できます。ラジオ型は楽曲配信者が決めた楽曲リストを順に再生して配信する方式のサービスで、代表的なサービスとしては「Pandora」があります。
ユーザーが自由に曲を選択できないという制約はありますが、その反面、自分がまだ聴いたことのない音楽に偶然出会える可能性もあるなどの魅力も備えています。
これに対して、オンデマンド型は自分で好きな曲を検索し、自由に再生できるという点が特徴です。今回紹介する「Spotify」や「LINE MUSIC」などのサービスはこのタイプに分類されます。
ラジオ型のサービスに比べると全体的に利用料金の価格設定が高く、配信曲数もやや少ない傾向がありますが、「好きな曲を好きなだけ聴ける」という点は大きな長所であり、これが多くのユーザーに支持されているポイントでもあります。
月額980円で4000万曲が聴き放題!Spotifyの魅力を解説
拡大する音楽ストリーミングサービス市場ですが、そのなかでもSpotifyは最大規模のシェアをもつ企業として大きな注目を集めています。
ビジネスモデルに「フリーミアム」を採用
Spotifyの大きな特徴のひとつとして、「フリーミアム」を採用しているという点が挙げられます。
フリーミアムとは、基本的なサービスを無料で提供することでユーザーを集客し、より高度なサービス求めるユーザーを有料プランへと誘導するビジネスモデルのことです。Spotifyの場合、無料のフリープランと有料のプレミアムプランがそれぞれ用意されています。
フリープランに登録したユーザーも楽曲は視聴できますが、曲の合間に広告がはさみこまれるほか、スマホからの利用時には好きな曲を選択する機能がロックされるなど、さまざまな制限が発生します。
しかし、これらの制限は月額980円のプレミアムプランに登録することで開放が可能です。さらに、洋楽と邦楽合わせて4000万曲以上のラインナップのなかから好きな楽曲を選べ、フリープラン利用時よりも高音質で視聴できるようになります。
このため、多少のお金を払ってでも快適な使用感を追求したいと考えるフリープランのユーザーが、次々とプレミアムプランへと乗り換えているのです。
新たな音楽体験を可能にする2つの機能
Spotifyには、「ソーシャル機能」と「ディスカバー機能」という2つの特徴的な機能が備わっています。
ソーシャル機能を使うことでユーザーは自作のプレイリストを友人と共有できるほか、好きなミュージシャンや音楽評論家のお気に入りの曲を簡単に調べられるようになります。
ディスカバー機能は、自分の視聴履歴や、自分の友人が普段聴いている楽曲のリストをSpotifyがチェックし、そのデータを元におすすめの楽曲をサジェストしてくれる機能です。
どちらの機能もこれまでにない音楽の視聴スタイルを提供することを目的に開発されており、ユーザーはいままで知らなかった曲を発見することが可能になるでしょう。
AppleにAmazon、競争が激化する音楽ストリーミングサービス市場
現在、音楽ストリーミングサービス市場には、急成長を遂げたSpotifyの後を追う形でさまざまな企業が参入を始め、激しい競争が繰り広げられています。
そのなかでも主要な企業であるAppleとAmazonの動向を紹介しましょう。
邦楽が豊富に揃えられた「Music Unlimited」:Amazonの事例
Amazonは2017年11月、音楽ストリーミングサービス「Music Unlimited」の国内運用を開始しました。
同社はすでにプライム会員向け音楽配信サービスとして、100万曲以上を無制限に視聴できる「Prime Music」を展開中です。
これに対して、Music Unlimitedの配信曲数は4,000万曲以上にのぼっており、Prime Musicよりも内容的に充実したサービスとして仕上げられています。配信曲には邦楽も多数収められており、日本のヒットチャートを賑わす人気アーティストの楽曲も聴き放題で楽しめます。
このほかにも、Amazonが独自に作成した日本人向けのプレイリストやラジオなども用意されており、日本のユーザーが利用しやすいサービスの環境づくりを追求している様子がうかがえます。
Apple Music機能強化のためShazamを買収:Appleの事例
2017年12月、Appleはスマホ用音楽検索アプリの「Shazam」を買収したことを発表しました。
Shazamは映画やテレビ番組、CMなどで使用されているオーディオクリップをアプリに聞かせることにより、曲名などの情報を自動判定してユーザーに伝える機能をもつアプリです。
Apple のスマホ向けアプリ配信プラットフォーム「App Store」では高評価を集めており、多くのユーザーから支持されています。
現在、Appleの展開する音楽ストリーミングサービス「Apple Music」は、ユーザー登録数の点においてSpotifyに差をつけられています。Appleには、Shazamを買収することでApple Musicの機能強化を図り、形成を逆転したいという思惑があると推測されています。
現段階でAppleは、Apple Musicにどのような新機能やサービスを追加する予定なのか、具体的な情報は明らかにしていません。今後の動向に注目が集まります。
日本での普及には、まだまだ時間が必要?
世界的に流行する音楽ストリーミングサービスですが、その一方で、日本では普及が遅れています。
日本では楽曲の入手方法としていまなおCDの購入が根強い人気を保っており、ダウンロードやストリーミングで楽曲を聴くというグローバルな潮流とはなじみが薄いことが原因です。
このため、国内に音楽ストリーミングサービスが浸透するにはもう少し時間を要するかも知れません。