本記事は、2009年2月5日に掲載された、G-Search sideB記事を再掲載しています。

いよいよ本番を迎えた受験シーズン、食品業界では既に恒例となった合格を祈願する「縁起菓子」による「験担ぎ商戦」が熱を帯びている。

縁起菓子とは受験にちなんだ語呂合わせを持つお菓子の事で、博多弁の「きっと勝つと」にネスレが販売するお菓子「キットカット」を掛けた事がきっかけと言われている。これが縁起がよいとされ、九州の学生から口コミで全国に広まっていったという。

当初お菓子メーカーの意図しない所でジワリと起きたブームだったが、これに注目した製菓業界の動きもあり、ここ数年で全国的なブームに広がっている。

さてこの縁起菓子だが、景気悪化で販売不振が続くだけに、業界は例年以上に売り込みを強化。新商品も続々と登場し、スーパーなどでも専用の売り場を設ける店が増えている。
また、製菓業界以外からの参戦も相次ぐなど、競合も増え、各社とも“付加価値”による売り上げ増を図る知恵をひねり出している。

こうした縁起菓子の最近の状況について、G-Searchの新聞・雑誌記事横断検索で調べてみた。

こんなに増えた縁起菓子

年々熱をおびる縁起菓子市場だが、参加する企業も多く、毎年様々な新製品が登場している。

新聞記事を調べると縁起菓子に関する記事が受験シーズンを前に急激に増えることがわかる。そこから今年の受験シーズンに向けた新製品に関する情報を抜き出しただけで、これらが見つかった。

◆08年度受験向け新商品

  • 合格エナジー(サントリー)
  • 勝つよ!けずりソフト(マルトモ)
  • 合格するぞ!ハッピーターン(亀田製菓)
  • カナエルコーン(東ハト)
  • 勝つ!おだしうどん(寿がきや食品)
  • お茶づけ海苔 受験生(永谷園)
  • ポテトチップス 合格桜塩味(カルビー)
  • 甘栗むいちゃいました 勝甘栗(クラシエフーズ)
  • さくらさくさくぱんだ(カバヤ食品)
  • リンキー とんカツあじ(湖池屋)
  • 勝ちグミチョコ(明治製菓)
  • 合格ちくわ(マルハニチロ食品)
  • ラストスパークリン(JT)
  • ガリガリ君リッチ紅白いちごミルク(赤城乳業)
  • 天才キョロちゃんチョコボール(森永製菓)

主に全国区で販売され新聞記事に掲載された商品だけをピックアップしており、地域限定の商品や掲載されていない新商品はこの他に多数ある。

効力を重視した商品も登場

新商品が続々登場するなか、近年は菓子メーカー以外の参入企業も目立つようになってきた。上で紹介したニチロの「合格ちくわ」や永谷園の「お茶づけ」の他、文房具などにも縁起商品が登場している。当然販売競争も激化する。

そこで各社、語呂合わせによる験担ぎのパッケージだけではなく、脳の働きを助ける成分を配合するなど、受験生の心をつかみ、他の合格祈願商品との差別化/販売増につなげようと工夫を凝らしている。

※成分配合型の商品例

  • 合格ちくわ(マルハニチロ食品)
    記憶力や集中力を高めるといわれるDHA(ドコサヘキサエン酸)を配合。
  • 天才キョロちゃんチョコボール(森永製菓)
    脳の栄養源といわれるブドウ糖入り。
  • さくらさくさくぱんだ(カバヤ)
    リラックス効果があるというGABAを配合。
  • ラストスパークリン(日本たばこ産業)
    ビタミン・アミノ酸入り。
  • 合格エナジー(サントリー)
    ブドウ糖やカフェイン入り。

老舗の商品は?

こうした新商品ラッシュの中、キットカットやカールのような定番商品はどんな戦略を打っているだろうか?調べると、新たな付加価値を提供する動きがある事が判った。

まず、明治製菓のカールは「ウカール」に名前を変えて新たに発売した。さらに「受かる」だけでなく、味も「とんか(勝)つ」ソースを使う力の入れようだ。

一方、元祖縁起菓子とされ「4人に1人が受験会場に持ち込む」と言われるネスレの「キットカット」は、飲料自販機向けやゲームセンターのクレーンゲームの景品など、販売チャンネルを拡大した。

さらに、菓子の箱に切手を張って投函できる新商品「キットメール」を開発。友人同士のエール交換や、遠方の受験生の孫を応援できる趣向で、なんと全国の郵便局でも販売している。

また、今年から受験生応援キャンペーンを展開する「すかいらーく」でキットカット販売コーナーを設ける他、赤木乳業との「季節ごとにネスレと共同で売り場を作る方針」に基づき「キットカットコーンアイス」を発売するなど、ジャンルを超えたコラボレーションに取り組んでいる。

さらに、ネットで「サクラサク」と検索すると、キットカットや提携するKDDIの受験生応援サイトが表示されるなど、万全の取り組みをしている。

今後の動きは?

さて縁起菓子だが今後どんな展開を示すのだろうか。

すでにこの合格祈願商戦は、スーパーやコンビニなども専用コーナーを設置する動きが定着している。エースコックでは「少子化の逆風を感じさせない一大市場に育ちつつある」という実感を感じているようだ。

また商戦の最盛期がセンター試験が実施される1月中旬だけに「クリスマスとバレンタインの2大商戦の谷間の期間を補う商戦」として、小売業界にとっては定番の商材となりつつあるが、「新規参入が相次ぎ、大幅な売り上げ増にはつながらない」という食品会社の本音もあるようだ。

そうした中、合格祈願にこだわらずノウハウを活用した上で、通年で需要を取り込める商品を開発する向きがある。

アサヒフードアンドヘルスケアは「ミンティア」の合格祈願商品の名称を「花咲くチェリー」から「ミラクルチェリー」に変更。合格祈願商品のノウハウを活用して、「幸運を呼ぶ菓子」としてターゲット拡大と通年で販売できる商品にする戦略だ。

こうした流れは定番キットカットでも起きており、少子化で受験生が減る中、受験という限られた需要を乗り越え、通年商品に育てられるかが、縁起菓子の販売拡大のカギとなるようだ。

参考