「ミーンミーン」「チリンチリン」…夏の思い出の音の秘密とは

本記事は、2009年8月31日に掲載された、G-Search sideB記事を再掲載しています。

ミーンミーンとセミが鳴き、チリンチリンと風鈴の音が響く庭先で縁に座りザクザクとカキ氷を食べる。ブラウン管の向こう側で金属バットのカキーンという音が鳴れば、ワーワーという歓声が沸きあがる。ぐっすりと昼寝をした後には、カランカランと麦茶を飲みながら夕涼み。

ワンワンと吠える犬を散歩に連れて行き、ヘトヘトになって帰ってくると、シュワーとグラスにコークを注ぎグイっと一気飲み。ザブーンと湯船に飛び込み、夕食のカレーをペロリと平らげると宿題も忘れてすやすやと眠る。

カタカタとタイプしながら思い出す、子供のころの夏の記憶。

話は急に変わるが、小学館より出版されている「日本語オノマトペ辞典」(6,300円)なるものをご存知だろうか。今私のもっとも欲しいものの一つであり、書店に行くたびに衝動に駆られている。

何の辞典かというと、普段何気なく使っているチリンチリンとかワンワン、ペロリなどの日本語で言う擬声語の辞典である。オノマトペとはフランス語のonomatopee、英語のonomatopoeia(オノマトピア)のことで、日本語に訳せば擬声語となる。これ以降は音がいいのでオノマトペを使わせていただく。

さっそくG-Searchの『新聞・雑誌記事横断検索』オノマトペに関する記事を調べてみる。

日本語とオノマトペ

日本語にはオノマトペがどっさりあって、文学ではそれが生き生きとした描写に欠かせない。しかし、一般に英独仏などの言語にはそういった語彙が乏しいため、欧米文学の翻訳家は、原文にないオノマトペをちりばめることによって「こなれた」訳文を作ることができるが、逆にオノマトペだらけの日本語を欧米の言語に訳すとなるとたいへんだそうだ。

オノマトペというのは感覚的な表現で、論理的に意味を特定しようとしても、定義をつるりとすり抜けてしまうという意見さえある。日本語の「もやもや」「ひやひや」「キャピキャピ」「ラブラブ」などはどうしても訳すことが難しいそうだ。

意味を伝えることはできそうだが、オノマトペの楽しさは音の響きとニュアンスが一致している表現にあると思うので、日本語以外で表現することはできないのではないか。海外の方には日本語の感覚を理解した上で、使用していただく他ないようだ。

詩とオノマトペ

仏文学者の宇佐美斉さんは「フランス語になった中原中也」と題した講演の中で、翻訳者であるイブ=マリ・アリューさんの翻訳作業の様子を語り、「ゆあーん、ゆよーん ゆやゆよん」というような中也詩独特のオノマトペを、他国語に置き換えることがいかに困難であったかを語ることで、逆に中也詩のもつオリジナリティーを浮かびあがらせた。

オノマトペは文学の中では著者の世界観を表現する上で欠かせないが、特に詩や短歌などで使われることが多い。中原中也は詩の世界ではその第一人者でもあり、1世紀近く前から独特のオノマトペを使用していることで知られる。また、小林秀雄の「詩は詩といふ独立の世界を目指すが、小説は人生の意匠と妥協する」という言葉にもあるとおり、独立した表現を探し求める詩人にとって、オノマトペを追求するのは自然な流れかもしれない。

天才とオノマトペ

ここまでオノマトペがゆるい表現であるにも関わらず文学に欠かせない表現として語ってきたが、オノマトペを語る上で欠かせない人物が2人いる。

漫画の世界ではオノマトペが頻繁に使われているが、初めてオノマトペを漫画に取り入れたのは手塚治虫である。手塚さんは漫画を追及し、それまでにないコマ割りを新しく考え出したが、絵と人物の言葉以外に世界を描写する方法としてオノマトペを取り入れたようだ。

もう一人は、長嶋茂雄である。長嶋さんのコメントにはオノマトペが欠かせない。語りつくされているが、少年野球教室の指導で、「球がこうスッと来るだろ」「そこをグゥーッと構えて腰をガッとする」「あとはバァッといってガーンと打つんだ」と語ったのはあまりにも有名な話。天才にしか理解できない表現ですし、見えてる世界が違うのだろう。

私のような凡人でも生活にオノマトペを取り入れれば、世界がくるりと180度変わるかもしれない。

参考

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