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プロ将棋界で30年間破られる事がなかった、前人未踏の29連勝(単独トップ)をはたした藤井聡太四段。現役中学生がプロ棋士になるだけなく、連勝記録も打ち立てる活躍に、これまで将棋に興味がなかった人も含め、話題に挙げる方も多いのではないでしょうか?

さて、連勝記録を作り始めてからの藤井君の活躍はご存じな方も多いと思いますが、それ以前の事はご存知でしょうか?今回は連勝記録で話題になる前の藤井君について、過去の新聞記事からご紹介します!これを読めばちょっと通ぶることもできるかも?

今回、膨大な全国の新聞記事を過去30年まで遡って検索可能な“G-Searchデータベースサービス”の新聞・雑誌記事横断検索で調べてみました!

史上最年少プロデビュー

それでは簡単に、藤井君のスゴさから振り返ってみましょう。

先ずプロ棋士になる方法ですが、ルートは2種類あり、奨励会に入って四段に昇段、プロ入りというのが一般的です。しかし、四段になるには年2回の三段リーグ戦で1位か2位になる事が条件で、年間わずか4人という狭き門です。プロ入りする為に何年も挑戦している自分よりはるかに年齢や経験の多い先輩たちと真っ向勝負して勝ち取るしかない、一切の予断を許さない勝負の世界です。
その難関をわずか14歳2ヶ月(初参加)で勝ち抜き、プロ入りを果たしたというのですから、藤井君の凄さがこれだけでお分かりいただけると思います。不肖自分が14歳の時になにしていただろうと考えると、もう恥ずかしくてどうにもなりません。

ちなみに、藤井君が登場するまでの最年少記録は14歳7カ月でプロデビューを果たした、昭和の天才棋士、加藤一二三(九段)でした。そして、加藤(九段)が藤井君の公式戦プロ初対戦の相手でもありました。なんとも運命的です。

連勝記録がデビュー連勝記録という驚愕の事実

どんな世界でも、プロ入りした直後はプロとアマの違いを見せつけられるものです。既に忘れられがち?かもしれませんが、今回の前人未踏29連勝が新人棋士のプロデビュー連勝記録でもあるということです。
30年間破られることがなかった、神谷広志(八段)が28連勝を達成したのは1987年で26歳頃の記録です。これまでのデビュー連勝記録は松本佳介(よしゆき)六段、近藤正和六段が作った10連勝が最高でした。それを大きく上回る記録更新です。藤井君がいかに破格かということが分かります。

デビュー前の藤井君を過去記事データベースで調べてみた!

では、デビュー以前の藤井君は、どんな活躍をしていたのでしょうか。過去の新聞記事を調べることができる“G-Searchデータベースサービス”の新聞・雑誌記事横断検索を使って、藤井君のこれまでを探っていきたいと思います!

検索でヒットした一番古い記事は2009年!

藤井君の名前がヒットした最古の記事は2009年4月22日の中日新聞で、「東山公園よい子の将棋大会」小学校低学年の部で優勝しているようです!

さらに、同年6月10日の中日新聞では「第八回倉敷王将戦県大会」で全国大会出場を決めた記事がヒットしました。この時は同門(ふみもと子供将棋教室)のM君(当時8歳)に負けて準優勝だったようです(藤井君はこのとき6歳)。記事によると

二十級から一年間で四級まで一気に昇級。今は二級で「羽生(善治)名人を超えたい」
と夢を語る。

という事で、その上達スピードの速さ、6歳で既にプロ棋士になる事を意識していることが垣間見え、驚かされます。

その後、同門のM君と全国大会出場に向けて毎年しのぎを削っているのが記事からわかります。

小学三年生で「低学年の部」全国優勝を果たし小学四年生で奨励会へ

そして、2011年8月12日の読売新聞の記事、「第10回全国小学生倉敷王将戦」では低学年の部で優勝、10位に終わった昨年の雪辱を果したという記事がヒットしました。
この時、藤井君は小学三年生(9歳)で、翌年2012年に日本将棋連盟の奨励会に入会したという記事に繋がります(2012年9月4日:読売新聞)。小学四年生で既に将来なにになりたいか決めているとうのが凄いです。

小学3年の時点で、詰将棋では既にプロ棋士に知られる存在に

さらに、この記事では、谷川浩司(永世名人)らプロ棋士やアマ棋士ら24人が参加した「詰将棋解答選手権大会」で、谷川浩司(永世名人)の10位を上回る6位に入賞(小学生では最高順位)した事にもふれており、既に詰め将棋は50手以上まで読め、お母さんと会話中にも頭の中で詰め将棋を考えていて、会話の途中で突然「出来た」と声をだしたという驚きのエピソードも。
他の記事では、既にこの頃、愛知県に難解な詰め将棋を驚異的なスピードで解く“怪物少年”がいる事は羽生善治棋聖らトッププロの間でも広まっていたらしいとのこと(2017年6月22日:産経新聞)。

新新世代?AIを駆使する新若手棋士の登場

次に、ズブな素人の不肖自分が、藤井君の強さの秘訣に大胆?(不遜にも)迫っていきたいと思います!

羽生善治(棋聖)がデビューした当時によく言われていたのが、コンピューターを駆使して将棋を研究する新世代の棋士という言われ方です。当時の記事によると、コンピュータに対して苦手意識もなくすんなりと活用した若手棋士らの勝率の高さは驚きをもって受け止められたようです。しかし今やコンピュータを使って棋譜をデータベース化し、分析・研究するのは当たり前となっています。

そういった中で、藤井君の強さの秘訣について面白い記事がヒットしたのでご紹介します。 藤井君は奨励会三段のときから、気になる棋譜を今話題の「AI」を使って分析し、正確な形勢判断や最善手を探るなどして対局に生かしているそうです。終盤の強さは前から定評がありましたが、AI活用により序盤力の強さもパワーアップしているという事です。

13連勝目で敗れた若手棋士、千田翔太六段(23)も「藤井四段の指し手にはかなりの程度、AIの影響がみられる。その強さは、もともとの棋力の高さに加え、AIの有効活用にあるのではないか」と話している。

(2017年6月22日:産経新聞)

記事によると、AIの戦法の特徴として、王将を取られる恐怖心のないAIは守りを最小限に序盤から機先を制して攻めきる大胆で冷徹な戦法を躊躇なく繰り出してくるそうです。

佐藤天彦名人が人工知能「PONANZA(ポナンザ)」と対局し敗れたニュースは記憶にあたらしいです。その時AI「PONANZA(ポナンザ)」が打った序盤の手も将棋のセオリーから大きくはずれるものでした。

ここで、藤井君の強さについて不肖自分が素人ながら大胆仮説を恐縮ながら書かせていただきます!(長年将棋ファンの方、怒らないで聞いてくださいね…) それは「AIの得意とする戦法と、新人だからこその(いい意味での)怖いもの知らずとの相性の良さ」にあったのではないでしょうか。

フィギュアスケートの浅田真央さんがデビューした時も、なんの躊躇もなく小さい体でポンポンとジャンプを成功させ観客を沸かせました。後に浅田真央さん自身も当時を振り返り、怖さを知らなかった的なコメントをされていました。

もちろん、藤井君の強さは長年の研鑽と才能によるものは疑いの余地もありませんが、この脅威の連勝記録の原動力の一端は、先にあげた恐怖心の無いAIの戦法と、新人だからこそ可能な、「守るものがない強さ」がいい感じにハマった結果ではないかと感じてしまうのです。

コンピュータやネットワークが生まれたときから身の回りにあったデジタルネイティブ世代の藤井君の活躍は、コンピュータ世代といわれた羽生善治(棋聖)の次をいくAIを駆使する新しい世代の登場を予感し、過去、羽生さん世代が登場した時と同様に今回も将棋界は少なからず変化を余儀なくされそうです。

羽生善治(棋聖)7冠達成フィーバー以来の将棋ブームなるか

スターの誕生は、その競技の一般の人への再認知や人気の向上に大きな影響をあたえます。一番身近な例としては、オリンピックで金メダル選手がでた競技は習う子供が増えるなどでしょう。
今回の藤井君フィーバーも将棋ファン以外の人たちの耳目を集め、将棋界にとって良い効果があるでしょう。今回の記録更新が掛かった試合会場で発売された藤井君の写真入りクリアファイルはあっという間に完売したそうです。
地元でも、新聞の号外が配布されたり、ファンクラブ構想があがっているなどで盛り上がっているようです。地元や将棋界への経済効果もありますが、なにより、藤井君の弱冠14歳という年齢で活躍する姿は同年代の青少年に身近な憧れの存在として写ることでしょう。ひいては将棋界の活性化に繋がることは想像にかたくありません。

藤井君の今後の注目ポイントは

プロ将棋の世界では、タイトルを獲ってこそという事のようなので、藤井君の初のタイトル挑戦時にはまた注目を浴びそうです。それが最年少タイトル獲得となればなおさらです。
ちょっと気が早いですが、最年少タイトル獲得について調べてみたところ、屋敷伸之(九段)が18歳で棋聖、羽生善治(棋聖)が19歳で竜王、谷川浩司(永世名人)が21歳で名人を獲得したとの事で、最年少タイトル獲得の記録更新の可能性は充分にあります。藤井君の活躍にしばらく目が離せませんね。

参考情報

  • 【読売新聞】
    めざせ!竜王、名人位 天才少年棋士、5段に/東京・…
    1988.04.13 東京朝刊 22頁 写有 (全308字)
  • 【朝日新聞】
    高柳敏夫8段 ワープロで電算将棋の限界探る(人きの…
    1989.06.28 東京夕刊 2頁 2総 写図有 (全500字)
  • 【西日本新聞】
    将棋・王位戦第六局、将棋界に新星誕生、谷川王位を振…
    1992.09.10 朝刊 26頁 19版26面4段 (全1,860字)
  • 【中日新聞】
    東山公園よい子の将棋大会(19日・東山動物園)=本…
    2009.04.22 朝刊 18頁 なごや東版 (全22字)
  • 【中日新聞】
    瀬戸と尾張旭の児童、瀬戸市長に喜びの報告
    2010.06.04 朝刊 18頁 なごや東版 (全673字)
  • 【読売新聞】
    「小学生倉敷王将戦」県代表 優勝目指し日々練習=愛…
    2011.05.19 中部朝刊 26頁 写有 (全410字)
  • 【読売新聞】
    全国倉敷王将戦 瀬戸の児童優勝=愛知
    2011.08.12 中部朝刊 29頁 (全393字)
  • 【読売新聞】
    小4棋士プロ登竜門へ 日本将棋連盟奨励会に入会 …
    2012.09.04 中部朝刊 29頁 写有 (全981字)
  • 【NHKニュース】
    将棋の藤井聡太三段 史上最年少・14歳2か月でプロ…
    2016.09.03 NHKニュース (全449字)
  • 【朝日新聞】
    名人、AIに連敗 将棋・電王戦二番勝負
    2017.05.21 東京朝刊 1頁 1総合 写図有 (全305字)
  • 【読売新聞】
    「藤井四段、さらに上を」 地元瀬戸でも28連勝号外…
    2017.06.22 中部朝刊 25頁 写有 (全357字)
  • 【産経新聞】
    藤井四段28連勝 定跡なき「AI戦術」 将棋ソフト…
    2017.06.22 東京朝刊 3頁 総合3面 写有 (全941字)